Q&A

日本で死刑を望む声は多いの?

新聞で世論調査の結果を読んだけど、日本では8割もの人が死刑を望んでいるって本当?
たしかにそうだね。
でも世論調査の結果だけを信じ込んでしまうのは危険だよ。
どういう質問をするかで答えも大きく違ってくるしね。
うーんと。
質問でそんなに答えは変わっちゃうの?
例えば「無実の疑いのある人について、死刑が執行されるおそれのある制度でも良いと思いますか?」と質問すれば、 ほとんどの人が、そのような制度はダメと答えるんじゃないかな。

また「終身刑を導入しても絶対に死刑にするべきだと思いますか?」と質問すれば、どうしても死刑にしろという人は少なくなるかもしれないね。

でもね、世論調査の前に、国際社会は既に死刑廃止の潮流にあることや、 日本はすすんだ民主主義国家として死刑の廃止を求められていることなど、 死刑に関する情報を国民に十分提供しておくことも非常に重要なことなんだよ。
外国で死刑を廃止したとき、世論調査の結果はどうだったのかしら。
例えばフランスの場合、死刑を廃止した時点での世論調査では死刑を残すべきだという意見の人が62%もいたんだよ。

でも、変化しやすい一時的な世論に根拠を置くのではなく、死刑制度の残虐性を冷静に検討し、 政治家のリーダーシップのもとで、民主主義社会のあり方として、死刑を社会から取り除いていったんだ。

おひさま弁護士のよくわかる解説

2020年1月17日、死刑制度に対する意識調査を含む「基本的法制度に関する世論調査」(2019年11月調査)の結果が公表されました。
調査結果を見ると、死刑制度に関し、「死刑は廃止すべきである」と回答した者が9.0%、「死刑もやむを得ない」と回答した者が80.8%となっています。
 この数字だけを見ると、国民の大半が死刑に賛成しているかのようにも見えます。でもよく見ると、「死刑もやむを得ない」と回答した者のうち、「状況が変われば、将来的には、死刑を廃止してもよい」と回答している者が、39.9%もいるのです。
ですから、「将来」の死刑廃止の当否に対する態度という基準で分けてみると、廃止賛成は41.3%、廃止反対は44.0%となります。
また、仮釈放のない終身刑が新たに導入されるならばどうかという問いに対しては、「死刑を廃止する方がよい」と回答した者が35.1%、「死刑を廃止しない方がよい」と回答した者が52.0%となっています。

ですから「死刑もやむを得ない」と回答した者を一括りにして死刑賛成派とは言えません。「将来」も考えれば、日本国民は、死刑を残そうか、廃止しようかと迷っているのです。

また世論調査の前に死刑に関する情報を市民に十分提供しておくことも非常に重要だと思います。
・国際社会は既に死刑廃止の潮流にあること
・日本はすすんだ民主主義国家として死刑の廃止を求められていること
・実際の日本国内の死刑の執行は絞首刑であり残虐な刑罰であること
・日本では確定した死刑判決について4件も再審で無罪判決が出ていること
など、正確な情報を提供しておく必要があります。

 しかしそれでも世論調査の結果は、死刑を存置する声の方が多いかもしれませんが、世論調査の結果は絶対ではありません。

 フランスは1981年にミッテラン大統領が死刑を廃止していますが、その時点での世論調査では死刑存置が62%を占めていました。

ミッテランは、大統領選挙の際のテレビ番組で、「良心において、良心に基づいて、わたしは死刑に反対します。」と明言して、 死刑存置派のジスカール・デスタンを破って大統領に当選し、フランスの著名な弁護士であるバタンデールを法務大臣に任命して、死刑廃止を実現しました。

 文化的歴史的な背景の異なる日本においても、死刑を存置し厳罰化を求める残虐な社会ではなく、被害者に対しては十分な補償をし、 加害者に対しても厳しく罪の償いを求めはするものの(場合によっては終身の服役もありえます)、 命までは奪わない寛容な社会を実現することは、民主主義社会の選択として、十分に可能な選択肢だと思います。

おひさま弁護士コラム

★コラム 明治時代 新聞記者のみた絞首刑

現在、日本では死刑の執行には、新聞記者が立ち会うことはできず、絞首刑がどのように行われているのかは、厳重に秘密にされています。新聞記者が死刑の執行に立ち会って、その様子を報道することは、アメリカでは認められているものの、日本では認められていないのです。
しかし、明治時代の初めには、新聞記者が死刑執行の現場に立ち会っていました。
当時の新聞記事を調査した本(「絞首刑は残虐な刑罰ではないのか?」中川智正弁護団、ヴァルテル・ラブル編著、現代人文社7頁以下)がありますから、いくつかご紹介しましょう。

○明治15年12月に執行された男性
「処刑の時、どうしたことかロープが途中で切れ、・・ばったりと地面に落ちて苦しんだ。看守は直ちにこれを引き上げ、ロープを取り替え、再び首を締めてやっと死に至らしめた。」

○明治16年7月に執行された女性
「死刑の執行で、吊り下がった瞬間に首が半分ほどちぎれて血があたりにほとばしった。5分間ほどで絶命」

○明治19年10月に執行された男性3名
「70名余りが参観。7時45分に・・が白紙で目隠しをされて仮の監房を出て15分程歩いて絞首台に登った。ガタンという音と共に吊り下げられ、18分間で死亡。次に・・も同じく15分間で息絶え、最後に・・も14分で息が絶え、8時52分に全ての死刑執行が終わった。」

○明治20年1月に死刑執行された男性
「沖縄は琉球国玉尚氏の時代から死刑を行わなかった。殺人などの重大犯罪でも八重山島に放流するにとどめ、どのようなことがあっても人命を絶つことは無かったが、沖縄県初めての死刑執行。」

○明治20年9月に死刑執行された男性
「絞首されて息を引き取るまで30分もかかったことは記録破り。」

○明治32年3月
「死刑の執行を言い渡すと、狂い出し、人々をねめ回して言った。『何です。死刑ですと。何故、私が死刑にされます。・・を殺したのは、さっき申し上げました通り、私ではなく・・でございますよ。それを何だ探偵めが人をだまして。こんな所へ連れて来やがって殺すというのは一体全体何という事でございます。ハイ。私は死ぬのは嫌でございますよ。』暴れ狂うのをやっと絞首台に登らせて午前9時20分執行。同53分に死体を親戚に引き渡す。」