テレビや新聞で凶悪事件が報道されると、「あんなひどいやつは死刑にして当たり前だ」という人が圧倒的に多いと思います。

 感情的にそうなることは良くわかりますが、今では世界の3分の2の国が死刑を廃止していることや(どうして多くの国が死刑を廃止したのでしょうか)、 国際社会が日本に対して死刑廃止に前向きに取り組むよう求めていることとか(どうして日本に死刑廃止を求めているのでしょうか)、 日本でも平安時代には約340年間死刑を執行していなかったこととかを冷静に考えてみる必要があります。

 とくに日本では、死刑判決を受けた後、長い年限がたった後無罪だったことの判明した人が4人もいます(どうしてそんなことが起こったのでしょうか、これからは起こらないのでしょうか)。 裁判員裁判の場合、有罪か無罪か、死刑か無期か市民が裁判官とともに決めることになりますから、なおさら死刑について考えておく必要があります。

 この教室は、死刑について考えるための教室です。みんなで一緒に考えてみましょう。


死刑制度の廃止を含む刑罰制度全体の改革を求める宣言


犯罪が起こったとき、我々は、これにどう向き合うべきなのか。そして、どうすれば、人は罪を悔いて、再び罪を犯さないことができるのだろうか。

悲惨な犯罪被害者・遺族のための施策は、犯罪被害者・遺族が、被害を受けたときから、必要な支援を途切れることなく受けることができるようなものでなければならず、その支援は、社会全体の責務である。また、犯罪により命が奪われた場合、失われた命は二度と戻ってこない。このような犯罪は決して許されるものではなく、遺族が厳罰を望むことは、ごく自然なことである。

一方で、生まれながらの犯罪者はおらず、犯罪者となってしまった人の多くは、家庭、経済、教育、地域等における様々な環境や差別が一因となって犯罪に至っている。そして、人は、時に人間性を失い残酷な罪を犯すことがあっても、適切な働き掛けと本人の気付きにより、罪を悔い、変わり得る存在であることも、私たちの刑事弁護の実践において、日々痛感するところである。

このように考えたとき、刑罰制度は、犯罪への応報であることにとどまらず、罪を犯した人を人間として尊重することを基本とし、その人間性の回復と、自由な社会への社会復帰と社会的包摂(ソーシャル・インクルージョン)の達成に資するものでなければならない。このような考え方は、再犯の防止に役立ち、社会全体の安全に資するものであって、2003年に行刑改革会議が打ち立て、政府の犯罪対策閣僚会議においても確認されている考え方である。

私たちは、2011年10月7日に第54回人権擁護大会で死刑のない社会が望ましいことを見据えて採択した「罪を犯した人の社会復帰のための施策の確立を求め、死刑制度についての全社会的議論を呼びかける宣言」(以下「高松宣言」という。)も踏まえ、その後の当連合会の活動の成果と国内外の状況を考慮して、本宣言をするものである。

2015年に国際連合(以下「国連」という。)総会で改定された被拘禁者の処遇のための最低基準規則(以下「マンデラ・ルール」という。)は、文字どおり被拘禁者を人間として尊重し、真の改善更生を達成するために求められる最低基準であって、これに基づいて刑事拘禁制度を抜本的に改革することが求められている。また、国際人権(社会権)規約委員会(以下「社会権規約委員会」という。)は、2013年には、強制労働を科す懲役刑制度は国際人権(社会権)規約第6条に照らして見直すべきことも勧告している。

そして、刑罰制度全体の改革を考えるに当たっては、とりわけ、死刑制度が、基本的人権の核をなす生命に対する権利(国際人権(自由権)規約第6条)を国が剥奪する制度であり、国際人権(自由権)規約委員会(以下「自由権規約委員会」という。)や国連人権理事会から廃止を十分考慮するよう求められていることに留意しなければならない。

この間、死刑制度を廃止する国は増加の一途をたどっており、2014年12月18日、第69回国連総会において、「死刑の廃止を視野に入れた死刑執行の停止」を求める決議が、117か国の賛成により採択されているところである(日本を含む38か国が反対し、34か国が棄権したものの、過去4回行われた同決議の採択で最も多くの国が賛成した。)。このように国際社会の大勢が死刑の廃止を志向しているのは、死刑判決にも誤判のおそれがあり、刑罰としての死刑にその目的である重大犯罪を抑止する効果が乏しく、死刑制度を維持すべき理由のないことが次第に認識されるようになったためである。また、2020年に世界の刑事司法改革について議論される国連犯罪防止刑事司法会議が、日本において開催されることとなった。

しかも、日本では過去に4件の死刑確定事件について再審無罪が確定し、2014年3月には袴田事件の再審開始決定がなされ、袴田氏は約48年ぶりに釈放された。死刑制度を存続させれば、死刑判決を下すか否かを人が判断する以上、えん罪による処刑を避けることができない。さらに、我が国の刑事司法制度は、長期の身体拘束・取調べや証拠開示等に致命的欠陥を抱え、えん罪の危険性は重大である。えん罪で死刑となり、執行されてしまえば、二度と取り返しがつかない。

よって、当連合会は、以下のとおり、国に対し、刑罰制度全体を、罪を犯した人の真の改善更生と社会復帰を志向するものへと改革するよう求めるとともに、その実現のために全力を尽くすことを宣言する。


1 刑罰制度の改革について

(1) 刑法を改正して、懲役刑と禁錮刑を拘禁刑として一元化し、刑務所における強制労働を廃止して賃金制を採用し、拘禁刑の目的が罪を犯した人の人間性の回復と自由な社会への再統合・社会的包摂の達成にあることを明記すること。

(2) 拘禁刑は社会内処遇が不可能な場合の例外的なものと位置付け、社会内処遇を拡大し、社会奉仕活動命令や薬物依存者に対する薬物治療義務付け等の刑の代替措置を導入すること。

(3) 犯罪の実情に応じた柔軟な刑罰の選択を妨げている再度の執行猶予の要件を緩和し、保護観察中の再犯についても、再度の執行猶予の言渡しを可能にするため刑法第25条第2項を改正すること。累犯加重制度(刑法第57条)についても、犯罪の程度に応じた柔軟な刑罰の選択を可能にするよう刑法を改正すること。

2 死刑制度とその代替刑について

(1) 日本において国連犯罪防止刑事司法会議が開催される2020年までに死刑制度の廃止を目指すべきであること。

(2) 死刑を廃止するに際して、死刑が科されてきたような凶悪犯罪に対する代替刑を検討すること。代替刑としては、刑の言渡し時には「仮釈放の可能性がない終身刑制度」、あるいは、現行の無期刑が仮釈放の開始時期を10年としている要件を加重し、仮釈放の開始期間を20年、25年等に延ばす「重無期刑制度」の導入を検討すること。ただし、終身刑を導入する場合も、時間の経過によって本人の更生が進んだときには、裁判所等の新たな判断による「無期刑への減刑」や恩赦等の適用による「刑の変更」を可能とする制度設計が検討されるべきであること。

3 受刑者の再犯防止・社会復帰のための法制度について

(1) 受刑者に対する仮釈放要件を客観化し、その判断を適正かつ公平に行うものとするため、地方更生保護委員会の独立性を強化して構成を見直すこと。また、規則ではなく刑法において具体的な仮釈放基準を明らかにするよう、刑法第28条を改正すること。併せて、無期刑受刑者に対する仮釈放審理が極めて困難となっている現状を改革するために、仮釈放の審理が定期的に必ずなされる仕組みを作るなど、必要な措置を講ずること。

(2) 罪を犯した人の円滑な社会復帰を支援するため、政府の矯正・保護部門と福祉部門との連携を拡大強化し、かつ、罪を犯した人の再就職、定住と生活保障等につながる福祉的措置の内容の充実を求めるとともに、当連合会も、出口支援(刑務所出所後の支援)・入口支援(刑務所に入れずに直接福祉につなぐ支援)に積極的に取り組むこと。

(3) 施設内生活が更生の妨げとならないよう、刑事施設内の規律秩序の維持のための規則及び刑事施設内における被拘禁者の生活全般を一般社会に近付け、医療を独立させ、可能な限り独居拘禁を回避し、また、拘禁開始から釈放まで、罪を犯した人と家族・社会との連携を図るなど、新たに改正されたマンデラ・ルールに基づいて刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(以下「刑事被収容者処遇法」という。)を全面的に再改正すること。

(4) 刑の言渡しを受けた人に対する資格制限その他刑を終えた者の社会復帰を阻害する刑法第34条の2「刑の消滅制度」と諸法に定められた資格制限規定について、その必要性を一つずつ検討し、不必要な資格制限を撤廃すること。

2016年(平成28年)10月7日

日本弁護士連合会

https://www.nichibenren.or.jp/activity/document/civil_liberties/year/2016/2016_3.html