怖い死刑があることで犯罪は少なくなるの?
死刑が怖いからひどいことをするのはやめようって思う人が多いんじゃないかな?
でも、よく調べてみると、死刑に、他の刑罰と比較して、特有の強烈な威嚇力があるということは、全く証明されていないんだ。 だから、死刑をやめて、他の刑罰におきかえることも十分可能だと思うよ。
鳩山元法務大臣は、
「ひっどい凶悪な事件を起こせば、自分の命が絶たれる、死刑というものがある、その死刑が執行される。 ということがあるから思いとどまる。だから私は死刑は廃止してはならないし、死刑執行も停止してはならないと思います。 それは安全な世の中を作る為の第一歩ですよ」
と発言しています。
しかし、死刑に他の刑罰と比べて、特有の強烈な威嚇力があることは全く立証されていません。
セリンという学者が、アメリカの死刑存置州と廃止州を対象にして、「他の事情が同じならば、殺人罪の頻度は死刑廃止州のほうが高率である」とか、 「殺人罪は、死刑を廃止すれば増加し、復活すれば減少する」などの仮説をたて、各種のデータを分析してこれらに当てはめてみたが、その仮説は論証されなかったとされています。
また、ドイツもイギリスもフランスもヨーロッパは全て死刑を廃止していますが(カナダやオーストラリアも廃止していますが)、 それで凶悪犯罪が増え治安が悪化したということは、論証されていません。
「目には目を、歯には歯を」ではじまった刑罰も、長い歴史の流れのなかで、目や歯を傷つけられたからといって犯人の目や歯を傷つける「身体刑」ではなく、 犯人の身体を拘束することで自由を奪う刑罰「自由刑」へと変化してきています。
「命には命を」という死刑も、やはり相当長期間(情状によっては終身)犯人の自由を奪う刑罰へと置き換えられていく歴史があります。
死刑に犯罪抑止力があるという主張は何となく分かりやすい気がするかもしれませんが、実際には、死刑に他の刑罰(例えば終身刑)と比べて、 特有の強烈な威嚇力があるかというと、そんなことは全く証明されていないのです。むしろ、死刑廃止国の治安が特に悪化したという論証がない以上、 死刑には他の刑罰と比べて特有の強烈な威嚇力はないというほうが、当たっていると思います。
★日弁連「死刑を考える」ホームページ
「凶悪犯罪に対して死刑以外に刑罰はないのでしょうか-死刑のない国では」
元法務大臣のなかには、死刑に賛成の立場から、「死刑を廃止している欧州連合などでは、現場執行しているではないか」と述べる方がいます。確かに、「死刑廃止には反対」、「諸外国では犯人検挙の際の簡易死刑執行(summary execution)がなされている事実を見逃している。死刑は野蛮だから断固廃止すべきだと主張するいわゆる先進国でも、逮捕に抵抗する犯人の射殺は容易に行われていることを廃止推進派は看過しています。」とのご意見もあります(佐々木知子元参議院議員。現在弁護士、元検察官、国連アジア極東犯罪防止研修所勤務。http://www.sasaki-law.com/memberof/concern7.htm)。
しかし、欧州連合の方に伺うと、武装したテロ集団を逮捕しようとする際には、やむを得ず射殺することもあるかもしれないが、通常はそのようなことはないとのご意見でした。例えば、ノルウェーでは、2011年に銃を乱射するテロ事件が起こり、77名の青少年が犠牲になったのですが、加害者はその場で射殺されることはなく、逮捕され裁判にかけられました。
現場射殺が、正当防衛や緊急避難の要件を満たさない場合には,当然違法とされます。
国連も、summary execution が違法であり禁止されるものであること、違法なsummary execution が行われたと疑われる場合には,十分な調査をしなければならないこととしています(Principles on the Effective Prevention and Investigation of Extra-legal, Arbitrary and Summary Executions https://www.ohchr.org/Documents/ProfessionalInterest/executions.pdf)。
正当防衛や緊急避難の要件を満たさない現場執行が法的に許されないことは、死刑存置国でも、死刑廃止国でも同じなのです。
死刑制度を廃止することも、違法な現場執行をなくすことも、いずれも重要な課題なのです。