本当に日本には死刑は必要なの?

死刑求刑の裁判員裁判に対する緊急声明 死刑廃止フォーラム 

りす

死刑求刑の裁判員裁判に対する緊急声明

現在、東京地方裁判所において、いわゆる「耳かき店員等殺人事件」の裁判員
裁判が行われています。2名が殺害されたこの事件の裁判では、10月25日
に検察が死刑を求刑しており、11月1日の判決言渡し日には裁判員制度下で
初めて死刑が宣告される可能性もあります。
私たちはいかなる死刑判決、死刑執行をも認められないという立場から、今回
の死刑求刑の裁判員裁判の動向に強い懸念を表明します。

まず、裁判員に死刑の判断を求めることは、耐え難い「苦役」であり、不当な
ものであると考えます。職業裁判官すら「重圧が大きい」と述べているよう
に、死刑の言渡しは非常に大きな心理的重圧を伴うものです。死刑の選択まで
させる市民参加型の裁判は海外でもほとんどありません。一般市民である裁判
員が、人間の生命を奪う死刑という刑罰の判断を行うというのは、その任務を
超えているといわざるをえません。
また、たとえ裁判員一個人が死刑の選択に反対であったとしても、それが少数
意見であれば、多数意見に従わざるをえないという、裁判員裁判における多数
決制の問題もあります。自らの意思に反して他人に死を強制する命令に参加さ
せられること自体、憲法18条が禁止する「苦役」に該当するのではないでし
ょうか。
さらに、死刑に関する情報が十分に公開されていないことから、裁判員が死刑
の是非を判断するには前提を欠いているという問題もあります。多くの市民が
抱く死刑のイメージとは、必ずしも事実に基づいたものではなく、恣意的な情
報公開やメディアの不十分な報道によって形成された断片的なものでしかあり
ません。果たして、そのような状況の下で、冷静で公正な判断を裁判員に期待
できるでしょうか。
加えて、本件は事件発生から1年2か月ほどしか経過しておらず、加害者の反
省や矯正可能性を判断するには尚早であると考えられます。死刑判決の基準で
ある「永山基準」の一要素には「犯行後の情状」がありますが、被告人が事件
と向き合い、被害者への謝罪と悔悟の気持ちを抱くには一定の時間が必要なも
のです。事件発生から1年2か月、実質的な審理が4日間、評議も4日間のこ
の裁判員裁判では、永山基準の「結果の重大性」、「遺族の被害感情」、「社
会的影響」が過度に強調され、「犯行後の情状」が十分に考慮されない可能性
があります。
以上のことから、いわゆる「耳かき店員等殺人事件」において、裁判員が死刑
の選択を行うことには重大な問題と疑念があり、今後の裁判員裁判の量刑に大
きく影響することになると考えられます。

死刑制度については、内閣府の世論調査では約85%が「容認」とのことです
が、法務省は死刑制度の存続の主な理由にこの世論の支持をあげています。し
かし、国連の人権理事会も勧告しているように、人権政策を世論の多数を理由
にしてはなりません。
私たちは、死刑制度の存廃について市民的な広範な議論を行うとともに、死刑
のない社会の実現を目指していきたいと考えます。

2010年10月28日
死刑廃止国際条約の批准を求めるフォーラム’90
東京都港区赤坂2-14-13
港合同法律事務所 気付
TEL 03-3585-2331
FAX 03-3585-2330

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