本当に日本には死刑は必要なの?

死刑をめぐる動き

りす
死刑をめぐる動き
 
 日弁連が昨年10月7日死刑廃止宣言をした以降も、様々な動きが続いています。
 駐日欧州連合(EU)代表部は昨年11月17日、シンポジウム「死刑について議論しよう」を開催しましたが、そのシンポの様子が2017年1月号のeurope magazine EU MAG 駐日欧州連合代表部の公式ウェブマガジンに、掲載されました。
 
一部を紹介すると
○冒頭のあいさつでヴィオレル・イスティチョアイア=ブドゥラ駐日EU大使は、いかなる場合においても死刑執行に反対し、死刑は人の生きる権利を侵害する制度であるとするEUの立場を述べた上で「死刑制度の問題は複雑であり、まずは情報に基づく理解と十分な議論が必要。日本には特有の歴史的あるいは精神的な背景状況があり、この議論が十分になされていない。本シンポジウムが日本での議論に貢献することを望む」と、今回のシンポジウム開催の意義を強調した。
○小川原優之弁護士(死刑廃止派)の講演内容 
2014年の国連総会で「死刑の廃止を視野に入れた死刑執行の停止」を求める決議が117カ国の賛成により採択され、経済協力開発機構(OECD)加盟国の中では日本だけが国家として死刑執行を行っていることなど、死刑廃止に向けた世界全体の動きを紹介。
国内で実際に起こった誤判やえん罪の事例を示し、死刑は一度執行してしまえば取り返しがつかない点や、虚偽の自白を引き出す恐れのある点などを日本の刑事司法制度の問題点として挙げた。犯罪被害者・遺族のための施策を充実させる一方、死刑を廃止して代替刑を検討し犯罪者の人権尊重も基本として更正プログラムを備えるなど、いずれの側についても、まず社会全体の責務として捉えることの必要性を訴えた。
○髙橋正人弁護士(死刑存置派)の講演内容
犯罪被害者の立場となった時に、被害者に伝えられる情報が極めて少ない現状を説明し、刑事訴訟において被害者側の弁護士や被害者自身が参加できる被害者参加制度について紹介。
被害者側の応報感情を個人的な「あだ討ち」という形ではなく、国家が代行することに死刑制度を含めた刑法の意味があるのだと訴えた。また死刑制度が廃止された各国でも犯罪者に対して現場射殺などが適用される事例が多いこと、それに対して日本では犯罪者であっても生存した状態での逮捕を徹底していることなどを事例として挙げ、日本における死刑制度がむしろ厳密な手続きによって執り行われていると主張した。
○質疑応答では、参加者から「被害者遺族の応報感情は、被害者、その遺族の人権を擁護するためだというが、その人権を擁護するために加害者の生きる権利を奪ってもいいのか」といった加害者の人権擁護面から死刑への疑問が提起され、これに対して髙橋弁護士は「まずは加害者が被害者の命を奪っている。そこに対する思考が欠落している。加害者がどんな残忍な方法で被害者の命を奪っているのか。被害者遺族は加害者に対して死刑を求める人権、権利があると思っている」との考えを示した。
一方、死刑存置を主張する参加者からは「人を殺しておいて、『自分は反省している』、『死刑にしないでください』というのはおかしいではないか」との意見が出され、小川原弁護士から「われわれ社会のあり方として、加害者の命を奪う形ではなくて、死刑に代わりうるものがあるのではないか。応報感情をある程度満たす、死刑に代わる刑罰を考えていくべきだ」との考え方が示されるなど、白熱したやり取りが行われた。
 
 
 ところで今年2月9日開催予定の法制審議会(法務省に設置されており、法務大臣の諮問に応じて、民事法、刑事法その他法務に関する基本的な事項を調査審議する審議会)に諮問される事項は、「少年法における少年の年齢及び犯罪者処遇を充実させる刑事法の整備に関する諮問について」であり、最近の報道によれば、議論される内容は、少年法の保護年齢引き下げにとどまらず、「刑務作業を義務としている懲役刑の代わりとして、再犯防止を主眼とする新たな刑罰の創設が法制審議会で2月以降、議論される見通しとなった。作業義務のない禁固刑と一元化」(読売新聞2017年1月16日)であるとのことです。
  これは刑罰制度全体の改革につながる重要な法制審議会であると考えられます。
 刑の一元化の議論は、現在の事実上終身刑化している無期懲役刑のあり方についての検討も含まれるべきであると思いますし、法制審議会の諮問事項に含まれてはいませんが、議論の過程で、制度としての仮釈放のない終身刑の議論や、死刑制度の存廃についての議論も、ないとは限りません。
 
 日弁連は、日本において国連犯罪防止刑事司法会議が開催される2020年までに死刑制度の廃止を目指すべきであることを宣言しているのですが、2020年なんてアッというまです。みなさんと連携しあって、死刑のない社会を是非実現したいと思っています。
>>一覧へ戻る さる