Q&A

日本に終身刑はないの?

「無期懲役」とか「終身刑」って言葉が出てくるけど、「無期限の懲役刑」「死ぬまで刑務所にいる刑」ってことは、どっちも同じなんじゃないのぉ?
無期懲役と終身刑の違い無期懲役と終身刑の違いはわかりにくいけれど、 簡単にいうと、仮釈放のあるのが無期懲役(相対的終身刑)、仮釈放のないのが終身刑(絶対的終身刑)だよ。
日本に終身刑はないのぉ?
法務省は、現在の仮釈放のある無期も終身刑だといっているけれども、普通は、仮釈放のない無期を終身刑と呼んでおり、これは日本には制度としてはないよ。

ただし、さっき「Q13:死刑がなかったら、受刑者はすぐ仮釈放されてしまうの? 」でお話したように、 現在の日本の無期は、仮釈放がすごく難しいから、すでに終身刑化しているともいえるよ。

おひさま弁護士のよくわかる解説

法務省は、現在の無期懲役も仮釈放にならない限り、服役期間は終身に及ぶのだから、終身刑だと言っています。 でも、普通言われている終身刑とは仮釈放のない無期懲役をさすので、この意味での終身刑は日本にはありません。
ただし、Q13:死刑がなかったら、受刑者はすぐ仮釈放されてしまうの?で述べたように、現在の無期懲役は運用によってすでに終身刑化しているとも言えます。

死刑を廃止する場合、死刑に代わる最高刑として仮釈放のない無期懲役(=終身刑)についても検討する必要があります。 その場合、恩赦についてはどうするのか、処遇の困難さにどう対応するのかなどを考える必要がありますが、すでに死刑を廃止している諸外国の立法例が参考になると思います。

日本弁護士連合会は、2019年10月15日付けで「死刑制度の廃止並びにこれに伴う代替刑の導入及び減刑手続制度の創設に関する基本方針」を取りまとめていますが、これは死刑を廃止し、「その代替刑として、仮釈放の可能性のない終身刑を新たな最高刑として導入し、死刑制度廃止の時点における死刑確定者及び以後の死刑に相当する犯罪に対して適用する刑とすることを目指す。」とするものです。
https://www.nichibenren.or.jp/document/opinion/year/2019/191015_2.html
★日弁連「死刑を考える」ホームページ「凶悪犯罪に対して死刑以外に刑罰はないのでしょうか-死刑のない国では」
https://www.nichibenren.or.jp/activity/human/criminal/deathpenalty/q09.html

おひさま弁護士コラム

★コラム 死刑を廃止して終身刑にするとコストが増えるの

ご遺族の中には、死刑を廃止して終身刑にすると、加害者を刑務所に一生収容しなければならず、自分の納めた税金がそんなことのために使われることには耐えられないと仰る方がいます。自然な感情としてはそのとおりでしょうが、国家の刑罰制度として考えたとき、死刑制度にはあまりにも弊害が多く、廃止して終身刑に置き換えていくことを考えざるを得ません。

また「死刑制度を廃止し、絶対的無期刑を導入した場合,被収容者をその寿命が尽きるまで収容しなければならず、その分収容コストが増加することとなる。」との意見(「社会復帰の可能性のない死刑囚を費用をかけ収監しておく意味があるか」。「死刑を考える」第一東京弁護士会死刑に関する委員会)もあります。
確かに、死刑確定者をすぐ死刑執行するのであれば、終身刑を導入するより、コストはかからないかもしれません。しかし、実際には、そう簡単にはいきません。
2020年6月現在、死刑確定者は約110名、無期刑は約1800名います。死刑確定者のうち、再審請求をしている人は、約80名います。「コラム 再審裁判で無罪が確定した人は4人だけ」にも書きましたが、日本の捜査手続きには弁護士が取り調べに立ち会うことができない、捜査官の求める事実を認めるまで保釈されず自白を強要される、捜査側の持っている証拠が弁護士に十分開示されないなど多くの問題がありますし、いったん刑が確定した後の再審裁判の手続きにも様々な問題があり、長期化せざるを得ないのです。

死刑確定者約110名が終身刑となったとしても、無期刑とあわせて約1910名となり、約6パーセント増えるだけです。

「実証的な分析」が必要なのでしょうが、死刑制度を維持するコスト(再審弁護に要する費用や執行のための設備や人件費も含めて)は社会的な負担が大きく、また現行の無期刑が既に「終身刑」化していること(現行の無期刑は、法制度上は10年で仮釈放可能なはずなのですが、ほとんど仮釈放は認められず、刑務所の中で死亡する人の方が仮釈放になる人よりも多く、「終身刑」化しています)からすると、新たに終身刑を設けてもコスト高は少ないと言えます。 むしろ仮釈放の許される無期刑(軽無期刑)と仮釈放の許されない終身刑(重無期刑)を別に法制度としてもうけ、軽無期刑について仮釈放を積極的に運用することによってコストを下げることも可能なのではないでしょうか。
このように考えれば、終身刑を導入する「経済的合理性」も肯定し得るのではないでしょうか。